フォト・エッセイ 熱い夏の日々


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天下一武道会


98年初夏、ぼくは不思議な空間の中に立っていた。

中国の深セン。
古代ローマを彷彿させる格闘コロシアムが不気味な光に照らされている。

世界16カ国、32人の格闘家、武道家が集まっての世界最強を決める格闘武術大会だ。

後にK1などにも参戦してきた、レイ・セフォ、ロニー・セフォの兄弟、チャップマン、騰牢といった格闘家、武術家の顔も見える。

雨が降っている。
その雨の中、リングを見つめる観客の数は5000人は超えている。

ぼくはリングサイドでカメラを構えて戸惑っていた。
なぜか・・・リングサイドにはぼくしか立っていないのだ。

これだけの格闘、武術の世界大会だというのにマスコミの姿が見えない・・・いや、マスコミには一切知らされていない大会なのだ。
その場所にぼくはどういうわけか紛れ込んでしまっていたのだ。

報道などいらない。
選手のファイトマネーもない。
ただあるのは、武術の聖地、中国で行われた世界大会に出ているという誇りと、そしてその場で頂点を極めるという闘うものたちの矜持。
そんな大会が中国(ここ)にあったのだ。

命が賭けられる。
鮮血がぼくの頭の上から降り注ぐ。
拳は肉を裂き、骨に打込まれた鈍い濁音。
鍛え抜いた男が目の前で悶絶する。
背中からは客席からは地響きのような声が轟音となって身体を震わせる。

リングサイドでひとり、ひたすらファインダーを覗きシャッターを切った。
6日間に渡っての壮絶な大会に向かって、ぼくはシャッターを切りつづけた。

6日間覗いたファインダーの中でひとりの男に釘付けになった。
岡部武央(おかべ たけひさ)、日本人の武道家である。
彼はこの大会で64s級の世界チャンピオンとなった。

ぼくは彼の闘い方に引き寄せられ、そして感嘆した。
これが武術・・・

ドラゴンボールの“かめはめ波”のように、岡部の内から激しい力が発せられたのをぼくは感じたのだ。

身体の内から発せられた力、内功の力。
そう、これがぼくがその後に虜になっていく、初めて知った武術の力。

天下一武道会がここにあった。




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