フォト・エッセイ 熱い夏の日々


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ロッキーを倒した男

マサの名が突然知られることになった。

世界挑戦を前にしたスーパースター、“浪速のロッキー”を倒したからだ。

ありえないと言われた。
偶然と言われた。
奇跡と言われた。

だけどだれもロッキーを倒した本当のマサのことは知らない。

マサがこの試合にどれだけ賭け、壮絶な練習をやってきたかを知らない。

マサは過去にボクシングをやるために20キロ近い減量をしたことがあることを知らない。 


子供のころ風呂屋で、黒い肌の色が落ちないと、いつまでも泣きながら身体をゴシゴシと洗いつづけていたことを知らない。

病院を改造したアパートの、四畳半の狭い部屋で四人の家族とともに身体を丸めて育ったことを知らない。

高校時代バレー部のエースだったことを知らない。

大きな家に家族を住まわせたいと、それでボクシングを始めたことを知らない。

腕のいいメッキ職人だということを知らない。


ロッキーを倒してから一年半後・・・
マサの名が歴史に刻まれた。

日本ミドル級チャンピオン、大和田正春としてその名が刻まれた。

ぼくは
そんなマサを知っている。




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